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アロコンセプトの生みの親:職人(アルチザン)菅野敬一。

 

鞄や名刺入れ、ギターケースなど飛行機の構造体を応用して作るエアロコンセプトの製品は、一瞬で目を奪われるユニークなデザインや革の風合いが印象的。

 

日本のみならず、ロバート・デニーロやジョージ・クルーニー、ジョー・ペリーなどが愛用するなど、海外でも高く評価されている。

 

菅野は、ルイ・ヴィトンやトヨタからのコラボレーションの話も断ってしまうほど、自身のコンセプトを大切にしている彼にインタビューした。

 

キラキラした大きな瞳でまっすぐ前を見据え、一語一語噛み締めるように言葉を紡いでいく菅野。

その佇まいに菅野のものづくりの真髄を垣間見た。

ーものづくりをする上で、何か常に考えていることはありますか? ー

エアロコンセプトは、より軽く、より強度が高く、より精密でという、飛行機の構造体を応用して作った技術的な部分が評価されていると思います。

 

製品に空いてるこの穴で言えば、確かに機能性から生まれたものだけれども、僕は同時に美しいとも思っている。

 

例えば磨かれた木のテーブルに鞄を置いた時、穴が下に映り込むのを見ると、穴の配置はこうなった方が綺麗だなとか、そういう見た目の綺麗さやかっこ良さはいつも考えています。

 

今僕が使っている鞄はかなり薄いけど、これで僕は十分なんです。

 

図面や私物、打ち合わせに使うものをこの鞄に入れて、毎日人に会いに行っていますが、余分なものは持ちたくないんですよ。

 

どういうことかと言うと、「今日はあなたにだけ会いに来た」って言いたいんです。あっちにもこっちにも行ってついでに寄りましたとか、この次の用事のあれとこれも入れられるしみたいな、そういう便利さはできるだけ排除したい。

 

「今日はあなただけなんだよ」っていうのはこっちが受けても嬉しいじゃないですか。それはかっこいいことだなって。

 

「今日はあなたに会いに来たんだよ」って言うために、不便と分かっていても効率性をあまり追求しないのは、ものではなく、使う人がかっこ良いわけだから、お客さんがかっこ良く振る舞える製品を作りたいと思ってる。

 

例えば、男が女の子に「その鞄私が持ってあげようか?」って言われたら、重くたって「大丈夫だよ、重くねえよ」って言うでしょ。

 

あれがかっこいいんであって、我慢しなきゃ男は絶対にかっこ良く見えない。「うん、重いよ~、持ってよ~」じゃ困ったもんだ(笑)。

 

だからやせ我慢っていうのもやっぱりかっこ良いわけ。僕が一番尊敬しているのは、寅さんとフレッド・アステアの2人なんだけど、寅さんのカッコ良さっていうのはそこにあるんだよね。我慢してるんだよ、陰で。

ーチャンスとはどんなことだと思いますか?

 チャンスと聞いて思うことやチャンスを逃さない方法があれば教えて下さい。ー

 

やっぱり本当に自分が好きなことといつも向き合っていけるかどうか、本音でその話が出来るかどうかで、良いチャンスに必ず巡り合うような気がします。

 

チャンスっていうのは良いチャンスと悪いチャンスとあるんですよ。自分が好きな方を見てれば、そこで出会う人が良いチャンスになるか悪いチャンスになるかが分かる。

 

本当はあんまり好きじゃないのに、株価の話をしたり商売の儲かる話をしてると、騙すような相手も出てくるから悪いチャンスにも巡り合うでしょ。

 

でも、自分の好きなことだけ求めていれば、相手は興味持たなければ去っていくだけだから悪いチャンスに合わなくて済む。

 

例えば、さっきみたいに僕が夕焼けの話をしたら、あなたが「私も好き」って言ったのはすごくチャンスなんです。商売の話をしてるんじゃないからね。

ーエアロコンセプトで追求しているかっこ良さは、男の生き方そのものに通じているー

 

目に見えるかっこ良さを表現するっていうのもいいんだけど、僕は親父とかから、本当のかっこ良さはもっと陰に隠れたところにあることを聞かされてきた。

 

「陰徳」って言葉があるじゃないですか。陰に隠れて人のためになる、そういうかっこ良さをものづくりの中に求めていきたいなと思ってる。

 

鞄だって、もうちょっと厚くすればもう3人くらい会えたじゃないかという考えもあるけど、そこは我慢してほしいんです。

 

こういう話は今の時代に中々適応しないけど、若い人達から反応があると嬉しいですね。

 

ー製品に使っている革にもかなりこだわって。ー

 

製品に使用している革の中に、クロコダイルのヒマラヤと言うものがあるのですが、それはエルメスが使ってるものと同じ製法で加工されています。

 

日本ってシャネルとかエルメスとかと肩を並べるいわゆるスーパーブランドってないでしょ。

 

だから問屋さんが買い付けてこれないんですよ。

特にクロコダイルが中々手に入らない。 

 

高級革は、アフリカとかパプアニューギニアやタイなどに行って買い付けるのですが、エルメスとルイ・ヴィトングループが養殖場自体を買収してるんで、ほとんどは彼らが持っていってしまうと聞いています。

 

だから大量には買ってこれないんですけど、どうにかして少しでもいいから買ってきてくれと頼みます。だからエアロコンセプトが使っている革は最高級なんです。

僕はもともと革が好きなんです。だから、ただ金属に革が貼ってあるだけじゃ嫌なんです。

 

触り心地が良くないとだめとか、コバ(革製品の端っこや切れ端の切断面のこと)磨きは手で素磨きしなきゃだめとか、どういう種類の革はどういう味が出るとか、細かいディテールまで革のことはよく分かってます。

 

例えば日本の革は傷をつけたら、その傷は取れないけど、イタリアの革は取れちゃう。

 

厳密には傷は取れないけど、革を染料でぐつぐつ煮ているので、表面から裏から中まで全部染料がしみ込んでいるから少し磨けば分からなくなる。革の色だって、紫外線を浴びると焼けてきて綺麗な色になるしね。

 

僕は敢えて手入れをせず、ちょっとほったらかしておくんですけど、手入れをすればもっと綺麗な色になるし、ピカピカにも光る。

ー先代がやられてきたことを改めてすごいと思うことはありますか?ー

 

当然あります。

 

うちには50年以上一緒に仕事してる70歳過ぎた職人がまだ2人残っていますが、彼らは今まで経験してきた「技」を持っていて、上手くいかない時の対処法を全て知っているんです。

 

職人技というのは機械なんて問題にならないくらい凄いですよ。

 

出典:Hight flyers#19

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